第2 論証と論証図
1 はじめに~長い道を短い道に分けるための道具~
(1)遠くにある結論
起案においては,遠くにある結論までたどり着くことを求められます。
目に見える近さのゴールまでたどり着けばいいのではなく,それなりに遠い,場合によってはかなり遠いゴールまで進むことを求められます。
その道を,一気阿世に駆け抜けようとすることは,かなり無謀で,危険なことです。
(2)短い道に分ける
そこで,結論までの道のりを細かく分けることを,基本的な作戦とすべきです。すなわち,ひとつの長い道のりを,いくつもの短い道のりに分けるわけです。途中に通過地点や休憩所をいくつか設け,それぞれの,ひとつの通過地点から次の通過地点までの道を,短くて簡単なものにします。
そうすれば,迷うこともなく,力尽きることもなく,最後までたどり着くことができます。
(3)分けるための道具
そのための道具として,
code:道具
ⅰ 論証
ⅱ 合体論証・合流論証
ⅲ 論証図
の三つをご提示します。
(4)参考文献
より正確な情報をお求めの方は,この二冊を使ってトレーニングしてみることを,激烈におすすめします。
例えば,
code:例
ⅰ A修習生は,毎日,昼休みを楽しみにしている。
ⅱ 大阪地裁のまわりには,おいしいランチを出す店が,たくさんあるからだ。
という二つの文章があるとする。
これら文章は,ⅰが結論で,ⅱがⅰに対する根拠なので,このひとかたまりが論証である。
これを,以下のように図示することにする。そして,このような図を,論証図と呼ぶことにする。
https://gyazo.com/93e31de400498e627af5956950a888e1
結論と根拠の間をつなぐ矢印を,「導出」と呼ぶことにする。(『論理トレーニング』にならって。)
(1)根拠≠導出
根拠と導出は,別物である。
(2)根拠の数≠導出の数
根拠の数と,導出の数は,必ずしも一致しない。
(3)導出の数を数える
例えば,次の二つの論証を比較してみると……
code:【例1】
ⅰ ケンタロウは料理人である。
ⅱ 料理人は,煮物を作るのが上手だ。
だから,ⅲ ケンタロウは煮物を作るのが上手だ。
code:【例2】
ⅰ ケンタロウの作る料理はおいしい。
それに,ⅱ 出版社の売り出し方も上手だ。
だから,ⅲ ケンタロウの料理本はよく売れるんだろうな。
例1は,根拠ⅰと根拠ⅱが合わさって,ひとつの導出となる。だから,導出の数は,ひとつ。
例2は,根拠ⅰだけでも結論ⅲにいたるひとつの導出,根拠ⅱだけでも結論ⅲにいたるひとつの導出,となっている。だから,導出の数は,ふたつ。
(4)合体論証と合流論証
※以下の図において①や②で表示される数字は、本文中のⅰやⅱと対応しています。
例1のようなやつを,合体論証と呼ぶことにする。
合体論証は,導出の数がひとつ。根拠のどれかが欠けるだけで,論証としての力を失う。
合体論証の論証図は,
https://gyazo.com/8c75757ab38fe39819adadd2a96c639e
と描くことにする。
例2のようなやつを,合流論証と呼ぶことにする。
合流論証は,導出の数が,複数。
合流論証は,根拠のどれかひとつが欠けても,論証としての力を失いはしない。(弱くなるけれど。)
合流論証の論証図は,
https://gyazo.com/af3374852417f00db7abc8eab1da280f
と描くことにする。
5 論証の構造
(1)組み合わせ
論証は,何段階にも積み重なることがある。
(2)実例
code:例
ⅰ ケンタロウが作る今夜のメインは,コロッケかサンマの塩焼きだ。
だが,ⅱ ケンタロウは,コロッケを出すときは必ずキャベツの千切りを付け合わせにする。そして,ⅲ 今日は,キャベツが売り切れてた。だから,ⅳ ケンタロウは今夜,キャベツの千切りを用意することができない。
ということは,ⅴ コロッケがメインではなく,ⅵ サンマの塩焼きがメインだ。
ⅶ 実際,サンマは今が旬だ。
結論は,ⅵ。
そこにいたる導出は,二つ。コロッケかサンマだけどコロッケじゃない,という固まり(ⅰ~ⅴ)と,サンマが旬だということ(ⅶ)。このふたつが合流論証。
https://gyazo.com/886f1d5a921a7b5038837501ae377129
さらに分析すると,ⅰ~ⅴのうち,直接の根拠となるのは,ⅰ+ⅴの合体論証。
そして,ⅴ「コロッケはメインじゃない」の根拠が,ⅱ~ⅳの固まり。
ⅱ~ⅳがどのようにⅴの根拠となっているかと言えば,直接の根拠が,ⅱコロッケのときは必ずキャベツの千切りが付け合わせになるのに,ⅳ今日はキャベツを用意することができない,という合体論証。そして,ⅲキャベツ売り切れが,ⅳキャベツ千切り用意できず,の根拠。
以上から,論証図は次のとおり。
https://gyazo.com/0fed4a1fb4113ba5c2c731c3ef409bcd
(3)考え方
ア 結論から下がっていくこと
イ 直接の根拠は何か?と問うこと
直接の根拠と間接の根拠を区別する。
要件事実的思考と似ているかもしれない(効果を発生させるためのぎりぎり最小限の事実は何か?)。